前書き
パワースプリッタ / コンバイナは双方向で使用できる受動素子で、単一の信号は複数の信号に分配され、また逆に複数の入力信号は単一の信号に合成されて出力されます。Nポートスプリッタの場合、入力信号はNポートの出力に分配されます。Nポートコンバイナとして使用するとNポートの入力は合成され1つのポートから出力されます。
応用例としては、試験機器、実験室および生産現場レベルの試験機器、パワーアンプサブシステムなど多くのタイプの信号処理が含まれます。最も一般的なタイプのパワースプリッタ/コンバイナは、Nポート間の振幅が等しく、位相差が 0° で、インピーダンスが同一であるものです。スプリッタとしての入出力損失はN (例えば、N=2ポートでは3 dB、N=4ポートの場合は6 dBの損失)により決まり、これに内部回路によるわずかな挿入損失が加わります。コンバイナとしては、単一ポートの出力はNポート入力の合計になります。信号処理に必要な位相シフトや不均一な振幅は通常、外部回路で実現されますが、一般的に使用される構成として、パワースプリッタ/コンバイナのパッケージに含まれる場合があります。
スプリッタ/コンバイナのもう 1 つの機能は、複数のポート間の分離です。デバイスの内部回路は、Nポートの1つから他のポートに通過する信号のキャンセル用に設計されています。良好なアイソレーションと正確な電力分配を行うために、内部は平衡回路になっており、不平衡により発生するエネルギーは内部の負荷抵抗で消費されます。負荷抵抗の定格により消費電力が決まるため、不平衡時の処理がパワースプリッタ/コンバイナの能力を決める重要な要素になります。
このアプリケーションノートでは、特に非コヒーレント信号で使用される場合にN個の入力信号の組み合わせがデバイスの電力処理にどのように影響するかを解説することに焦点を当てています。
信号のコヒーレンスについて理解する
信号の位相コヒーレンスについては、さまざまな定義で説明されます。 おそらく最も単純な定義は、2つの信号が同じ周波数で一定の位相オフセットを維持している場合のコヒーレンスです。言い換えると、2つの信号間の相対位相Δφ(図1および2)は、時間が経過しても一定に保たれています。逆に、2つの信号が相互に一定の位相を保たない場合は、図3に示すように、それらは非コヒーレントと見なします。



2分配のパワースプリッタの場合を考えてみましょう。入力された単一の信号は2つの出力信号に分配され、それぞれの電力は元の半分(-3 dB)になります。出力は同じ入力信号から得られるため、出力間に位相差はありません。したがって出力はコヒーレントです。伝送線路の1つに時間遅延のあるセクションなどが挿入されると位相差が発生しますが、この位相差は一定に維持されるため、信号はコヒーレントのままです。これらのコヒーレント信号により信号パスのバランスがとれ、負荷抵抗によって電力が消費されることは実質的にありません。
逆方向(パワーコンバイナとして)として使用する場合、2つの入力がコヒーレントで振幅が同じであれば、デバイスは平衡状態になり負荷抵抗に電力は供給されません。しかし入力信号に何等かの違いがある場合(非コヒーレント)にはシステムは不平衡になり負荷抵抗で電力が消費されます。非コヒーレントにより消費される電力量は負荷抵抗の定格を超えてはいけません。
一般的に、非コヒーレント信号は、振幅、位相、周波数のいずれか、あるいは複数の点で異なるため、その結果大きな不平衡電力が消費されます。消費電力の範囲は、ごくわずかな量から総入力電力にまでに及びます。
ミニサーキット社がカタログ中で定義する非コヒーレント信号
パワーコンバイナの挿入損失は、合成信号の振幅と位相の関係に応じて変化します。弊社の多くのスプリッタ/コンバイナにおいては、コンバイナとして定格電力を指定する際は、脚注に「コンバイナに非コヒーレント信号を入力する場合、ポートあたりの最大電力はXXワットの電力定格をポート数で割った値です」と記載しています。言い換えれば、合成電力の耐電力は内部抵抗の耐電力に依存します。
それぞれの合成信号の入力電力は、XX-W/N(Nはポート数)を超えることはできません。たとえば内部消費定格電力が0.8Wの2分岐パワースプリッタがある場合、各ポートの最大電力は0.8W / 2、つまり各ポートあたり0.4Wです。2つの入力信号の振幅が等しく同相である場合(図4を参照)、挿入損失がゼロになるため、定格電力はスプリッタと同じ定格電力をNポートで割ったものになります。
したがって、信号が完全に周波数と振幅のコヒーレントである場合、定格10ワットの2分岐スプリッタは、5ワットの信号を2つ処理することができます。
2つの信号の周波数が異なる場合、挿入損失は理論上の挿入損失と等しくなります。つまり、異なるRF周波数の2つの信号が合成される場合、各信号は3dBの損失でSポートに現れます。内部抵抗は、各信号の3dBの電力損失を吸収します。
ただし信号の位相が180°逆の場合(図5を参照)には挿入損失は無限大になります。 この場合、電力は出力されず全電力は抵抗で消費されます。


要約
Mini-Circuitsのパワースプリッタ/コンバイナ製品の電力定格は、内部の負荷抵抗の許容電力に基づいて表示しています。コンバイナとして使用する場合、内部負荷抵抗は、非コヒーレント入力信号間の差から生じると予想される電力を消費できる必要があります。この不平衡または差電力は入力の振幅と位相によって変化するため、ユーザーは自身のアプリケーションで想定される入力信号の範囲を把握しておく必要があります。